桜侍（おうじ）くんとのお別れ

 

　　　朝、桜侍くんを

　　　酸素室にお迎えに行って

　　　ケージを囲ってあるビニールをあげて

　　　桜侍くんの顔をのぞいて

　　　まあるいかわいいお目目の桜侍くんの顔が見えて

　　　「桜ちゃん　起きてたの？　うふふふっ」

　　　ん？！

　　　なんか違う

　　　呼吸を確かめてみる

　　　してない？！

　　　え？　

　　　うそ！？

　　　そっと触ってみると

　　　桜侍くんじゃない・・・

　　　もう、固くなっていました・・・

   　　覚悟のないまま

　　　あまりにも突然で

　　　心も体もついていけません・・・

　　まさか今日

　　もう会えないなんて

　　思ってもみなかった・・・

　　昨日、次の１５日分のお薬を取りに行ったばかりです

　　昨日の夕飯だって食べた

　　ひとりで立っておしっこもできた

　　お水もいっぱい飲んだ

  　普通だった

　　普通だった・・・

　　普通だったと思う・・・

　

　　昨日の夜、お決まりのように

　　９時まえにはひどい咳が出始めて

　　いつも通り、桜侍くんにはお店の酸素室に入ってもらって

　　「桜侍く～ん　おやすみ～　明日の朝お迎えに来るからね～」

　そういつも通り話しかけて・・・

　　朝、５時半過ぎにお迎えに来たら

　　もう・・・

　　すでに・・・

　　桜侍くんは、旅立った後でした

　　

　　

　

　　　どうして？

　　　なんで？

　　

　　　揺らしても揺らしても

　　　起きない桜侍くん

　　桜侍くんの名前を

　　何度呼んでも

　　大きな声で呼んでも

　　泣き叫んでも

　　桜侍くんは起きてくれなかった・・・

　　約束しておけばよかった・・・

　　ひとりで逝かないように・・・

　　約束しておけばよかった・・・

　　なんで待ってくれなかったの？

　　なんで・・・

　　おいていかないでよ

　　ひとりで逝かないでよ

　　私はどうすればいいの？

　　どうしたらいいの？

　　　どれだけ

　　色んな後悔をしても

　　桜侍くんはもう

　　戻ってはこない

　　桜侍くんの

　　自慢のお母さんでいないといけない

　

　　

　桜侍くんの咳はもう出ない

　まさか

　　お別れが今日だなんて・・・・